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NPOと社会貢献活動


道路部長 西村泰弘

 先日、札幌で開催されたNPOの全国大会に参加した。主婦層を中心に若者、高齢者が千名程参加し、大変な熱気であった。市民中心ではあるが、行政や企業からの参加もあり、NPOの広がりを感じた。これまでの行政と企業、市民という関係に、新たに特定のミッション(社会的使命)を持ったNPOが加わり、これらの連携・協働がキーワードになってきた。

 NPOとは、Non-profit Organizationの略で、民間の非営利組織のことである。我が国では、1998年にNPO法(特定非営利活動促進法)が施行されてから、急激にその活動が広がっている。今では、全国で12,780団体(2003年8月末)が誕生している。その活動分野は、保健・医療・福祉分野がトップで、社会教育、まちづくり、学術・文化・芸術・スポーツ、環境などと多岐にわたっている。

 NPO活動は、ボランティア活動などの営利を目的としない市民の自由な社会貢献活動である。ただし、非営利と言っても必ずしも無償を意味せず、活動に必要な収益は認めており、営利よりもミッションを優先していると考えるべきである。ここが利益を配当する企業と異なる。このため、ミッションのないNPOは有り得ない。NPOは、狭義にはNPO法に基づく法人格の非営利な民間組織であるが、広義には地域の住民活動やボランティア活動など市民活動団体も含めており、全国には10万近くの活動団体があると言う。

 欧米では、採算性などから行政や企業では取り組みづらい事業でNPOが活躍している。米国のピッツバーグでの製鉄場の跡地利用や老朽化した住宅地の再生が有名であるが、行政と企業、行政と住民の間でニーズがあるのに潜在化している事業で、建築や環境、福祉、教育など様々な分野の専門家集団が活躍している。

 我が国では、NPO活動が市民運動の延長として見られがちで、よく行政との対立関係で語られる。そして、行政の非効率性や怠慢さへの批判から、行政に代わる機関としてNPOの必要性が言われる。しかし、NPOは、福祉や環境など特定のミッション実現のための団体である。当然、他の対立するミッションを重視する人々もいる。NPOは公益性を重視しているとは言え、特定分野の利益集団である。これに対して、行政には、国や地域全体を考え、偏らない公平な立場が求められる。しかし、多様なニーズの時代、行政の硬直化が目立つのも確かである。少子高齢化や財政悪化の時代、行政への市民参加は不可欠であり、特定の集団であるNPOを絶対視すべきではないが、より一層NPOと行政との連携や協働が必要となっていると考えるべきである。

 ところで、NPO活動が活発化しているとは言え、未熟な団体は多い。NPOは、先ず何らかの社会貢献のミッションが前提である。そして、組織性(正式な組織)、民間性(非政府性)、公益性(不特定多数の利益)、非営利性(利益の不配分)、自律性(意志決定能力)、自発性(個人意志による参加)が必要で、さらに自立性(経済的自立)と専門性(ノウハウや人材)が求められる。行政に過度に依存する団体や組織・資金のない団体、専門的なノウハウや人材のない団体は、NPOとは言えない。また、NPOはコミュニティビジネスの起爆剤ではあるが、企業化の道具ではない。

 一方、NPO活動には、資金や人材面での支援が不可欠である。市民や企業が様々な市民活動を支援する活動をフィランソロピー(社会貢献活動)という。我が国では1990年が「企業フィランソロピー元年」と言われ、経団連の1%クラブが発足し、企業内に専門部署が設置されてきた。バブル崩壊後、派手な活動はなくなったが地道な活動は続いている。また、阪神・淡路大震災以後、一般市民のボランティア活動が盛んになり、現在のNPO活動につながっている。これからは、企業とともに個人も如何に社会貢献するかが問われる時代であり、低成長時代の人の生きがいにもつながる。ハンガリーでは、国民が所得の1%を好みのNPOに寄付していると言う。

 知識人の多くは、今後はNPOが日本の推進力になるという。拙速に多くの団体が誕生していく姿には、怖さも感じる。しかし、資金のない時代、明確なミッションを持ったNPOは、多くの可能性を持っている。ただし、これを支える基盤は、NPOを支援する市民や企業である。法的なNPOにこだわらないが、少子高齢化時代に社会参加するという市民意識の向上は重要である。雇用や社会保障等の将来への不安の多い中、社会貢献など考えていられないが、殺伐とした時代こそ、どう生きたかという“生き方”が大切な気がする。一人よがりの趣味的活動は好きではないが、個人としての社会貢献活動は必要な時代と感じる。


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